
やっと念願かなってYCAMでの上映(YCAM特別上映・イッセー尾形主演作品「太陽」)に行ってきました。
ざっくりとした印象は日本人では描けない昭和天皇の姿を観たなあって感じ。
例えば御前会議のシーンは短めにバッサリ簡略化されているように思うし、玉音放送のシーンはまったく描かれず映画のスタッフロールでうっすらと流されるに留まり、また「人間宣言」そのものはさらりと流す程度だったり、「雑草という植物はない」発言のような昭和天皇の人間性を表す時に用いられるエピソードはほぼ使われていなかったりと、日本人が描くならもっと細やかに描写するであろう部分を切り捨てていたり軽く触れる程度で済ませていたり。
では何をソクーロフ監督は描いていたかというと、天皇の日常風景や細やかな感情の移ろい、あるいはマッカーサーとの会談で覗かせる少しばかりの昭和天皇の本音のようなもの、そして皇后とふたりだけでいるときの落ち着き子どもを思いやる姿であったりする。
そしてこの試みを昭和天皇を演じるイッセー尾形が忠実に、シリアスに、ときにコミカルに演じきっている。
この映画は「ソクーロフ監督の」というよりも「イッセー尾形の」という所有格の元に語られるべきなんじゃないかと思ってしまうくらいにイッセー尾形の演技が際だっているように思う。
ただし、僕にはちょっとだけその演技が過剰に思えたかな。
いやこれはこれで良かったと思うんだけどね。
そうそう、所有格という言葉で思い出したけど、劇中昭和天皇とマッカーサーとの会談のシーンで昭和天皇は英語を用いて直接言葉を交わすんだけど、そこで常に「Emperor」という三人称を用いて話しているのがすごく印象に残った。
とにかく最後まで「I」って一人称で語らないんだよね。
それが史実に即したものかはわかんないけど、でもこの映画で描かれている昭和天皇の姿を鮮やかにする手段としてはすごく良いのではないかと思ったなあ。
それとアメリカ兵たちをちょっとだけバカっぽく描いていたのは監督の意地悪な目線が現れていたのかなあと思ったり。
あ、もちろんイッセー尾形以外の役者さんたちも良い演技をしてたし、映像も音楽も綺麗だった。
日本の1945年8月を淡々と美しく昭和天皇中心に描いた良い映画だと思います。
おすすめ。